ソ連とのあいだに生まれた緊張緩和(デタント)の機運は、米国政権内のタカ派の圧力ですぐに消え去った。ソ連崩壊後、単独の覇権を謳歌するアメリカは、世界の警察官を任じるに至った。史上最低と呼ばれた大統領のもと、非人道的な国家を援助し、大量破壊兵器を有してもいない国家に戦争を仕掛けその文明を破壊したアメリカでは、国内経済の瓦解がとどめようもなく進行していた。そしてその覇権にも翳りが見え始める――9・11テロはその象徴だったが、ネオコンの圧力のもと、軍事費は国家予算を圧迫して増大し続ける。未曽有の所得格差に怒りの声を上げ始めたアメリカ国民は、改革の兆しを初の黒人大統領、オバマに認めたが、その希望はすぐに失望に変わった……



オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史: 3 帝国の緩やかな黄昏オリバー・ストーンが語る もうひとつのアメリカ史: 3 帝国の緩やかな黄昏
(2013/06/06)
オリバー・ストーン、ピーター・カズニック 他

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アメリカ版自虐史観全3巻、ついに完結!



自虐史観とはちと言い過ぎだが、3巻で1500ページもの量を読みながら、オリバー•ストーンという人が映画や著作を通じて何がしたいのか、考えてみた。

氏の出世作「プラトーン」。反戦映画という評判が高いが、あれは自分は軍隊という社会を描いたものだと思っている。社会なので、勇敢な人や普通の人、卑怯な人などいろんな人がいる、という作品だと思う。

「ウォール街」。最近続編も出たが、あれも投資銀行という社会にいろんな人がいるというお話だ。だからこうすべき、というメッセージはない。

「JFK」。暗殺事件の黒幕を暴いた、というよりは、ウォレン委員会の検討過程に疑問を呈した内容だ。

こうして見てくると、ストーン監督の作品の傾向が見えてくる。方向感を示しているわけではなく、世の中にはこんなおかしなことをしている人がいるよ、というメッセージだ。本書も、そのつもりで読むと腹に落ちてくる。

>レーガンに直に接した人たちは、多くが彼の無知に驚いている。1982年の終わり、ラテンアメリカ諸国訪問から帰国したかれは、記者達に「いろいろ学んだよ…驚いたね。ラテンアメリカがあんなにたくさんの国に分かれているなんて」と言ったという。

レーガン大統領がどんなにアホでも、冷戦を終わらせたという業績には変わりはないと思うのだが、どうしてもストーン監督はこれを言いたいらしい。これ以外にも、いかにカーター大統領がブレジンスキー補佐官に振り回されていたか、とか、戦争が大好きだったブッシュ・ジュニアの閣僚連中は実戦経験の無い奴ばかり、といった話が満載だ。

こういった指摘の仕方は、ある意味あら探しすればいくらでもできるもので、ブッシュジュニアの閣僚たちは確かにチェイニーやウォルフォウィッツはそうかもしれないが、肝心のラムズフェルド御大が海軍のパイロットでバリバリ実戦経験があったことには触れていない。この辺が、私がストーン監督はずるいと思うゆえんである。

そういう細かいところはさておき、このシリーズの1作目、2作目を見て、この本はこれで事実を知る、という本ではなく、オリバー•ストーンという人がアメリカの歴史をどう見ているかという本だ、と言ってきた。そのこころは、この本が一次資料になっている情報はほとんどなく、他の本からも得られるからだ。

しかし本作のカバーしているイラク戦争以降の時代になってくると、他の資料ではお目にかかれない、あるいは一次資料が新しすぎて、私自身がまだ当たれていない情報もあるようだ。その観点では、本書が新鮮に写る場面もある。例えば、そもそも冷戦時の均衡を保っていたのは、相互確証破壊という考え方だ。これは双方が相手を一定の確率で破壊していくわけだから、報復に告ぐ報復でお互いが消耗していく、そんな勝者のいない戦いは無駄なのでどちらもミサイルの発射ボタンは押さない、という考え方だった。

ところが、冷戦が90年に終了してから、ロシアの核戦力はほとんど進化しなかったのに対して、アメリカのミサイルの精度は飛躍的に上がったようだ。この結果、ロシアとアメリカの核戦力はアンバランス化し、いろんな条約の前提条件が崩れてしまった。同時にアメリカは、核による先制攻撃を意図するようになった。つまり相互確証破壊が成り立たず、先に打って相手を撃滅できるアメリカが圧倒的に優位な状況になってしまった。

この状況を回避するには、アメリカが核の撤廃に応じるか核の先制攻撃不使用を宣言するかしかないのだが、現時点ではその兆候は無い。オバマ大統領の核無き世界宣言も、実際にはこういう現実の下に発せられているわけだ。これは自分も認識が甘かった。21世紀初頭というのは実に怖い時代だったんだ。

それからカーター大統領を洗脳してタカ派に変えてしまったと本書で言われているブレジンスキーが、対テロ戦争についてこんなことを言っている。

>冷戦時代にソ連の恐怖を掻き立てるにあたって同様の役割を果たしたブレジンスキーには、どれほどの痛手だったかが理解できたのだ。ブレジンスキーは2007年3月に、いわゆる対テロ戦争は「恐怖の文化」を意図的に作り上げることによって、「アメリカの民主主義、アメリカ人の心、そして世界におけるアメリカの評価にすさまじい悪影響を及ぼしている」と書いた。

>ブレジンスキーが繰り返し明言しているように、テロは戦術であってイデオロギーではないし、戦術を相手に戦争をするなどまったくのナンセンスなのだ。

そうか! テロは戦術であってイデオロギーではない。確かにそうだ。それにテロ類似行為は今や米国がもっとも得意とするところになってしまっている。無人機攻撃などは最たるものだ。完全な自己矛盾である。かといってたとえばイスラムの教え自体を戦争の対象とするのは困難だ。それはそのまま世界を敵に回すことになり、だれもアメリカについてこなくなる。

それから長くなるのでもうこれ以上は引用しないが、オバマ大統領が就任以降いかに国民の期待を裏切ってきたか、なぜ議会対策にあんなに苦労しているのかの分析はかなり秀逸だ。ストーン監督のものを見る眼は、戦争よりも政治を見るのに向いているのかもしれない。実は氏の作品「ニクソン」をかつて見たのだが、俄然また見たくなった。☆☆☆。

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