小さな町の食堂、その倉庫の奥の「穴」。その先にあるのは50年以上も過去の世界、1958年9月19日。このタイムトンネルをつかえば、1963年11月22日に起きた「あの悲劇」を止められるかもしれない…ケネディ暗殺を阻止するためぼくは過去への旅に出る。世界最高のストーリーテラーが新たに放った最高傑作。

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(2013/09/13)
スティーヴン キング

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ホラー小説の巨匠、スティーブン・キング(綴りからはステファン・キングだと思うんだが)の最新作邦訳版。この人は実生活でも相当苦労しているようで、若い頃に英語教師をやりながら小説を書いていて、やっと処女作「キャリー」を大ヒットさせたのに、その後薬とアルコールに溺れ、やっと抜け出したら今度は車に跳ねられて片足が不自由になったりと、不幸の星の下にいるような人なのだ。私も昔々に「スタンドバイミー」を読んだ気がするが、それ以外のホラー物には手が出てない。だって怖いんだもん(笑)

しかし今回タイムトラベラー物で大作をモノにしたということで、読んでみた。注目点は三つある。一つはタイムトラベルをどう見せるか。特に本作では「タイムパラドックス」問題を正面から取り上げている点で注目だ。タイムパラドックスとは「Back to the Future」でマーティの身体が透けてくるあれである。過去から作家たちはパラレルワールドを設定したりして説明を避けてきた。しかし今回はここに第二の注目点であるケネディ暗殺の謎が絡んでくる。本作の中で作者はケネディ暗殺の犯人について、作者なりの結論を示している。

主人公は友人から「過去に戻ってケネディ暗殺を止めてベトナム戦争での虐殺やそれに続くアメリカの過ちを正してくれ」と頼まれる。つまりパラレルワールドでケネディ暗殺を阻止しても意味はなく、今のこの世界そのものの過去に戻らないと小説が成り立たない。そこで作者は、過去への入り口を958年9月19日という特定の時間に固定するという荒業に出る。これでもし過去の修正に失敗しても、いったん現代に戻ってもう一度過去に戻れば何度でもやり直しが効くということになるのだ。

しかし現在につながる過去は、それ自身がまるで意思を持っているかのように変えられることに抵抗する。変えようとするといろんな厄災が主人公に降りかかってくる。それも主人公だけでなく、過去の世界で主人公が深くかかわった人たち、生徒や同僚、恋人などにも。この過去の人たちとの人間関係の作り方は、まさにスティーブン・キングワールド。「スタンドバイミー」を髣髴させる世界が読者を迎えてくれる。ここがこの小説の三つ目の注目ポイントだ。

そして過去は何度も修正を加えられることで、時空全体にねじれのエネルギーが蓄積していく。そしてケネディ暗殺は阻止できるのか。主人公たちの運命は・・・ この時空の歪の感じは、いかにも現代の天文物理学の洗礼を受けた作家ならでは。「宇宙創成」「重力機械」を髣髴させる。

上下巻1,000頁に渡る物語も、最後はこの3つをいかに調和させて終わらせるかに腐心しているように見える。若干強引さが感じられたのが残念。しかしこの主人公、英語の先生で小説家志望、おまけに本人ではないが別れた妻がアル中で、本人も傍観に襲われ片足を怪我する・・・ って、モデルはスティーブン・キングその人ですね(笑) ☆☆☆

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