空には暗雲がたれこめ、気温は下がりつづける。目前には、植物も死に絶え、降り積もる灰に覆われて廃墟と化した世界。そのなかを父と子は、南への道をたどる。掠奪や殺人をためらわない人間たちの手から逃れ、わずかに残った食物を探し、お互いのみを生きるよすがとして―。世界は本当に終わってしまったのか?現代文学の巨匠が、荒れ果てた大陸を漂流する父子の旅路を描きあげた渾身の長篇。ピュリッツァー賞受賞作。
世紀末、人類はほぼ死滅し、父と子は南を目指して歩いていく。なんの希望もない殺伐とした世界に取り残された親子の愛情を描いた傑作。著者が本作の着想を得たのは、当時4歳の息子と過ごしている時だったそうだ。ちょうど私の息子と同い年。作中の少年はもう少し歳上だが、この父が息子に感じる狂おしさは、まさに4歳くらいのあどけない息子に対する感情にぴったり一致する。
人が人を食らう世界に取り残され、そこに愛する息子と二人きり。一緒にいることが果てしなく哀しく切ない。ただただ息子の柔らかい頬に自分の頬を寄せ、その髪の毛の匂いを嗅ぐ。極限の状況に置かれているからこそ、いとおしさが何倍にもつのる。そんな状況で父も試され、息子の信頼を失ったり、また取り戻したり。息子もそんな父の姿を見ながら、純粋さは保ちつつも、人間として成長していく。
そして父は、自分の死を予感する。こんな不条理な世界で息子より先に死ねば息子はきっと生きられない。幼い息子をひとり残して自分は死ねるのか。しかし息子は唯一の希望だ。息子を守りきることが自分が人の親であることの証になる。この切なさや、息子を守るためだけに生きようという父の決意、余りにリアルで100%感情移入してしまった。
ネタバレになるのでこれ以上は書けません。ハッピーエンドとも不条理な終わりとも言えません。それを言ってしまうと、この切なさが半減してしまうからです。でもその苦しさが最後のカタルシスにつながるということだけは申し上げられます。そしてきっとあなたも、この本を読み終えたとき息子を抱き締めたくなります。手をつないで歩きたくなります。似たテーマの小説は時々ありますが、マッカーシーの筆力により、風景の寂寥感と子供の純真さのコントラストが見事で、息子を持つ父親必読です。それにしても、ただ親子が歩いて旅をするだけなのに、こんなに重厚な物語になるのが驚き。☆☆☆☆☆。
ザ・ロード (ハヤカワepi文庫) (2010/05/30) コーマック・マッカーシー 商品詳細を見る |
世紀末、人類はほぼ死滅し、父と子は南を目指して歩いていく。なんの希望もない殺伐とした世界に取り残された親子の愛情を描いた傑作。著者が本作の着想を得たのは、当時4歳の息子と過ごしている時だったそうだ。ちょうど私の息子と同い年。作中の少年はもう少し歳上だが、この父が息子に感じる狂おしさは、まさに4歳くらいのあどけない息子に対する感情にぴったり一致する。
人が人を食らう世界に取り残され、そこに愛する息子と二人きり。一緒にいることが果てしなく哀しく切ない。ただただ息子の柔らかい頬に自分の頬を寄せ、その髪の毛の匂いを嗅ぐ。極限の状況に置かれているからこそ、いとおしさが何倍にもつのる。そんな状況で父も試され、息子の信頼を失ったり、また取り戻したり。息子もそんな父の姿を見ながら、純粋さは保ちつつも、人間として成長していく。
そして父は、自分の死を予感する。こんな不条理な世界で息子より先に死ねば息子はきっと生きられない。幼い息子をひとり残して自分は死ねるのか。しかし息子は唯一の希望だ。息子を守りきることが自分が人の親であることの証になる。この切なさや、息子を守るためだけに生きようという父の決意、余りにリアルで100%感情移入してしまった。
ネタバレになるのでこれ以上は書けません。ハッピーエンドとも不条理な終わりとも言えません。それを言ってしまうと、この切なさが半減してしまうからです。でもその苦しさが最後のカタルシスにつながるということだけは申し上げられます。そしてきっとあなたも、この本を読み終えたとき息子を抱き締めたくなります。手をつないで歩きたくなります。似たテーマの小説は時々ありますが、マッカーシーの筆力により、風景の寂寥感と子供の純真さのコントラストが見事で、息子を持つ父親必読です。それにしても、ただ親子が歩いて旅をするだけなのに、こんなに重厚な物語になるのが驚き。☆☆☆☆☆。