西欧民主主義敗れたり! ! 著者渾身の歴史的<刮目>大作 終わりなき内戦が続き、無数の武装勢力や海賊が跋扈する「崩壊国家」ソマリア。その中に、独自に武装解除し十数年も平和に暮らしている独立国があるという。果たしてそんな国が存在しえるのか? 事実を確かめるため、著者は誰も試みたことのない方法で世界一危険なエリアに飛び込んだ──。世界をゆるがす、衝撃のルポルタージュ、ここに登場!
以前、高野秀行にずいぶんはまっていた時期があったのだが、ここ数年は若干なかだるみというか、昔ほどの面白さが感じられなかったのであまりフォローしていなかった。しかし本作を読んで、改めて氏の作家としての可能性に注目している。簡単に彼の過去の作品に触れてみたい。
まずはこちら。自分が始めて読んだ高野秀行の本。トルコの東部にあるワン湖にすむという怪獣を探しに行く話なのだが、筆者の肩の力の抜けた、それでいて出会う人々への観察眼がユニークで優しく、一緒に怪獣探しをしている気分にさせてくれる本である。私がにらんだとおり高野氏の目はあまりに鋭く、この後ヒットを連発することになった。
これは強烈だ。ミャンマーのシャン州に入り込んで地元の人と仲良くなり、一緒にアヘンを栽培し、挙句の果てにアヘン中毒になってしまう。日本ではあまり評価されていないのだが、ミャンマーの麻薬栽培の実態にここまで迫った本は珍しいらしく、英訳やらスペイン語訳やら何ヶ国語にも翻訳されているらしい。
シルクロードにはいくつかルートがあるが、インドからミャンマーを経て中国に抜けるルートを現代になって実際に通り抜けたひとはいなかったらしい。そこを高野氏はいろんな手を使って通過していく。ある意味、探検家としての彼の面目躍如ともいえる本。ただしこのときに無許可でインドに入国したがゆえに、以降インドには入国禁止になる。この辺は「怪魚ウモッカ格闘記」に詳しい。
タイトルどおり、イスラム諸国に行って隠れてお酒を飲むお話。あの戒律の厳しいイランにも行っているところがすごい。氏は時々「自分には間違う力が備わっている」とのたまうが、イスラムの国でアルコールを求めてさまよっている様子を読んでいると、まさに「間違う力」炸裂だと思う。
実はこのあたりで少し作風にも中だるみがあったのだが、今回のソマリランド話ではその心配は完全に払拭された。これまで氏がこだわりを見せていたミャンマーに関する作品では多民族間の紛争の表面だけをさらっていて、氏の関心はもっぱら地元の少数民族との直接接触にあるように見えた。
だが本作でむしろ問題意識のあり方がより格調高くなり、ソマリ人とその国家がいかに自立していくか、またその具体的方法などにも論が及んでいて、たとえば現地NGOの人などにとっての必読書、というレベル感になっている。国連の場などでの発表にも耐えうると思われる。
印象的なのは、高野氏が体感的にたどり着いた結論が、他の作家や活動家がたどり着いた後進国支援の考え方とまったく同じであること。すなわち、一方的に与える支援では国民は自立できない、というもの。おのおのの国民が自分たちの国民性を活かしながら、その国民性にマッチした発展方法を工夫していくのが、どんなに多額の補助金よりも効果があるのだ。
なんとなく、先日の自殺率の低い徳島県海部町のお話と共通するような気もする。人間が活き活きと生きていくためには何が大事なのか、考えさせてくれる本である。☆☆☆☆☆。
謎の独立国家ソマリランド (2013/02/19) 高野 秀行 商品詳細を見る |
以前、高野秀行にずいぶんはまっていた時期があったのだが、ここ数年は若干なかだるみというか、昔ほどの面白さが感じられなかったのであまりフォローしていなかった。しかし本作を読んで、改めて氏の作家としての可能性に注目している。簡単に彼の過去の作品に触れてみたい。
怪獣記 (講談社文庫) (2010/08/12) 高野 秀行 商品詳細を見る |
まずはこちら。自分が始めて読んだ高野秀行の本。トルコの東部にあるワン湖にすむという怪獣を探しに行く話なのだが、筆者の肩の力の抜けた、それでいて出会う人々への観察眼がユニークで優しく、一緒に怪獣探しをしている気分にさせてくれる本である。私がにらんだとおり高野氏の目はあまりに鋭く、この後ヒットを連発することになった。
アヘン王国潜入記 (集英社文庫) (2007/03/20) 高野 秀行 商品詳細を見る |
これは強烈だ。ミャンマーのシャン州に入り込んで地元の人と仲良くなり、一緒にアヘンを栽培し、挙句の果てにアヘン中毒になってしまう。日本ではあまり評価されていないのだが、ミャンマーの麻薬栽培の実態にここまで迫った本は珍しいらしく、英訳やらスペイン語訳やら何ヶ国語にも翻訳されているらしい。
西南シルクロードは密林に消える (講談社文庫) (2009/11/13) 高野 秀行 商品詳細を見る |
シルクロードにはいくつかルートがあるが、インドからミャンマーを経て中国に抜けるルートを現代になって実際に通り抜けたひとはいなかったらしい。そこを高野氏はいろんな手を使って通過していく。ある意味、探検家としての彼の面目躍如ともいえる本。ただしこのときに無許可でインドに入国したがゆえに、以降インドには入国禁止になる。この辺は「怪魚ウモッカ格闘記」に詳しい。
イスラム飲酒紀行 (2012/09/01) 高野 秀行 商品詳細を見る |
タイトルどおり、イスラム諸国に行って隠れてお酒を飲むお話。あの戒律の厳しいイランにも行っているところがすごい。氏は時々「自分には間違う力が備わっている」とのたまうが、イスラムの国でアルコールを求めてさまよっている様子を読んでいると、まさに「間違う力」炸裂だと思う。
実はこのあたりで少し作風にも中だるみがあったのだが、今回のソマリランド話ではその心配は完全に払拭された。これまで氏がこだわりを見せていたミャンマーに関する作品では多民族間の紛争の表面だけをさらっていて、氏の関心はもっぱら地元の少数民族との直接接触にあるように見えた。
だが本作でむしろ問題意識のあり方がより格調高くなり、ソマリ人とその国家がいかに自立していくか、またその具体的方法などにも論が及んでいて、たとえば現地NGOの人などにとっての必読書、というレベル感になっている。国連の場などでの発表にも耐えうると思われる。
印象的なのは、高野氏が体感的にたどり着いた結論が、他の作家や活動家がたどり着いた後進国支援の考え方とまったく同じであること。すなわち、一方的に与える支援では国民は自立できない、というもの。おのおのの国民が自分たちの国民性を活かしながら、その国民性にマッチした発展方法を工夫していくのが、どんなに多額の補助金よりも効果があるのだ。
なんとなく、先日の自殺率の低い徳島県海部町のお話と共通するような気もする。人間が活き活きと生きていくためには何が大事なのか、考えさせてくれる本である。☆☆☆☆☆。