フランスの田舎道でパンクのため立ち往生したバスは、ドイツ軍の機銃掃射を受けて動けなくなった。これから先は歩くしかない。老イギリス人は、やむなくむずかる子供たちの手を引いた。故国を目差して! 戦火広がるフランスを、機知と人間の善意を頼りに、徒手空拳の身でひたすらイギリス目差して進む老人と子供たち。感動の冒険小説。(Amazonより)

パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫)パイド・パイパー - 自由への越境 (創元推理文庫)
(2002/02/22)
ネビル・シュート

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これまたゴロちゃんさんのブログで拝見し気になっていた作品。ネビル・シュートといえば「渚にて」のカタストロフィックなストーリーがあまりにも有名だが、こちらは英国老紳士による勇気あふれるさわやかな冒険譚。このお話は1942年に書かれており、その時代背景が生々しく描かれている。まずはこの小説の舞台となった当時のフランスの状況を振り返らねばなるまい。

1940年初夏に電撃戦と称してドイツ軍がベルギー、オランダ、そしてフランスへなだれ込み、一気に西ヨーロッパを占領するにいたった。第一次大戦以降20年間の惰眠をむさぼっていたフランスは政治が混乱し、目前の危機に挙国一致することなく降伏し、ドイツ占領下のヴィシー政権が立ち上がる。この政権は完全にドイツを向いている。
フランス国内もヴィシー政権に同調する人たちと、英国に逃れて亡命政府を樹立したドゴール将軍を支持する勢力に分かれる。ヴィシー政権を支持する人たちは連合国に対しては敵対意識を持っている。これには英国が当時のフランス海軍の軍船を撃沈したことなども作用している。

こんな複雑な国内情勢の中を、その敵国と目されている英国の老人が徒手空拳で、しかも子供連れでスイス国境からドーヴァー海峡を目指すのである。劇中の会話の中にもその微妙な国際情勢が表れていて、フランス市民によっていつドイツ軍に密告されるかという主人公の緊張感が伝わってくる。英語を話しているだけで英国のスパイと間違われかねないが、英語ネイティブの子供もいてこれがまた緊張感を高めてくれる。
英国人の婚約者を亡くしたフランスのお嬢さんもこの逃避行に途中から参加するのだが、英国人の彼を偲びながらフランスに暮らしている彼女にとっては、英国人の一行の脱出を手伝う行為が彼女にとっての正義なのである。

当時のイギリスで、フランス人がドイツ兵の目を盗んで英国人を助けるというストーリーが大いにうけたのは想像に固くない。老人が主人公なので派手なアクションは期待すべくもないが、脱出行には欠かせないいわゆる「最大のピンチ」のシーンもちゃんと設定されており期待を裏切らない。どうやって切り抜けるかは読んでのお楽しみである。小さな子供から見ると大人は周囲のすべてのことをコントロールしているように見えるが、どっこい大人だって命が磨り減るくらいにドキドキなのだ。

子供のころに見た映画「日本沈没」のラストに、故郷を失った主人公がブラジルの大地を鉄道で去っていくシーンがあり、もし自分がこんな目にあったらつらいだろうなと40年以上経った今でも思い出すと切なくなるのだが、今度からはこんな大人が一緒にいてくれることを想像することにしよう(笑 ☆☆☆。