「なにも言わずに消える。それが俺には納得できなかった」自分の前から、突然消えた女を追いかけて、青年はこの街にやって来た。癌に冒された男との出会い。滅びゆく男に魅いられた女との再会。青年は、それから生きていくためのけじめを求めた。やがて死に向かった男の生命の炎が燃え尽きたとき、友の瞼には残照が焼き付けられる。喪失しつづけた男たちが辿り着く酒場を舞台に、己の掟に固執する男の姿を彫りおこす好評“ブラディ・ドール”シリーズの第7弾

残照 (角川文庫―ブラディ・ドール)残照 (角川文庫―ブラディ・ドール)
(1992/12)
北方 謙三

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やはり前第6作で核となる人物(藤木)が亡くなったために、この7作目は筋書き自体がかなり中だるみしている。本来このシリーズは、その作品の主人公となる人が一人称で語っていく形式になっていたのだが(いま思えば街の中心人物である川中も今思えば第1作では一人称で語っていた)、前作では本来一人称で語るべき藤木の心の葛藤を周囲が見守る、という形式であったため、代わりの語り手を用意したのだが、やはり藤木が主人公であることは覆いようもなかった。そこで物語はこれまでのセオリーを一つ踏み外している。

今回も主人公(つまり人生をかけて何かと闘う人物)が癌と闘う人という設定だったので、癌の人の心理を描くことに躊躇があったのか、別の人物を語り手に設定している。その語り手は作品の中で左手を失ってしまうのだが、その痛みと本来の主人公の痛みを対峙させることで、語り手に主人公の心境を疑似体験させている、といっては言い過ぎか。そのシーン。

>沖田の痛みは、終わることがない。ひと晩耐えればいいというものではないのだ。生きていることそのものが、痛みのようなものだろう。

>「痛いですか、先生?」沖田が首を振る。「モルヒネ、貰ってきましょうか」「私も、意地を張るところがあってね」「つまらないな。つまらないと思いはじめましたよ」「大事なことだ」「痛いって、言いませんか、二人で」「二人で?」「誰も、聞いちゃいない」沖田の表情が、一瞬和やかなものになった。

痛みを通じて二人は理解しあったということだろうか。しかしこの後、沖田は自ら死を選ぼうとするのだが、そこがちょっと。さすがにこれ以上のネタバレはまずいので書けないが、なんだか無理やりストーリーを終わらせようとしたように見える。恐らく、これまでの6編で同じような終わり方があまりに多いので違うことをしようとしてうまくいかなかったという感じがするのだ。

あくまで推測ではあるのだが、いずれにせよ7作目までの中でもっとも凡庸なのが本作だ。☆☆。

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